未登記建物の解体の流れ。忘れてはいけない家屋滅失届出書とは?費用、補助金について

未登記建物・相続登記

不動産は「登記されている」と思いがちですが、実は未登記の建物は少なくありません。もしも未登記の建物を解体する必要が出た場合は、いったいどうすればよいのでしょう。未登記の建物の解体の流れや、その際の注意点、また、解体にかかる費用や自治体の助成金や補助金制度などについてお話ししましょう。


未登記建物を解体するケース

Aさんの父親が亡くなり、Aさんは郷里にある父親の家、実家を相続することになりました。法定相続人はAさん1人です。しかし、Aさんはすでに親元を離れ、家を持ち、そこで自分の家族と暮らしています。郷里に帰って相続した家に住むことは考えられません。

そこで相続した実家の売却を考えました。ただ、家は老朽化が進んでおり、家を解体して更地にし、土地のみを売り出したほうがいいかもしれません。しかし、ここでAさんは困ってしまいました。相続した家が「未登記」だったのです。

未登記の建物とは、登記簿(不動産の所在地、構造や大きさ、そして、所有権などに関する情報を記した公の帳簿)に記録されていない建物を言います。実は未登記建物は数多く存在し、特に古い建物に多いことが指摘されています

相続との時や、建て替えを検討し金融機関にローンを申し込んだ際に登記簿を確認することになり、実は未登記建物であったと判明するケースも少なくないようです。

不動産の登記は大切であり、建物の登記については「建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、表題登記を申請しなければならない」と定められています(不動産登記法第47条)。

この条文に示されている「表題登記」とは、その建物の所在、種類、構造、床面積など、建物の物理的な状況の登記のことです。この表題登記をした後、建物の所有権を明示するための「所有権保存登記」を申請します。表題登記、所有権保存登記によって、その建物がどこにあり、どのような建物か、さらに、その建物の所有権が誰にあるかが公的に明示されることになります。

さて、Aさんが相続した家が、間違いなくAさんの父親の所有であれば、未登記であってもその家を解体することができます。ただし、もしも万一、建物が他人の所有であった場合、あるいは、所有者が誰かわからないという場合は、問題です。他人の建物を勝手に解体したなら建造物損壊罪(5年以下の懲役)にあたるからです。こうした問題が起きないようにするためにも、不動産の登記は大切です。

建物登記の有無の確認方法

家が登記されているか、登記されていないかを確認する方法は二つあります。

簡単な方法は、固定資産税の納税通知書に同封されている課税明細書で確認する方法です。課税明細書には建物所在地欄に「家屋番号」が記入されています。この家屋番号の記載がない場合には、建物の登記がされていない、つまり未登記建物である可能性が高いと言えます。

もう一つは、建物の所在地を管轄する法務局で登記簿を調べる方法です。
法務局で「全部事項証明書」の交付申請を行って確認します。「全部事項証明書」とは、その不動産について登記簿に記録されている内容のすべてを証明するものです。この書面を取得できれば、登記されている建物「既登記建物(きとうきたてもの)」であり、取得できなければ未登記建物です。

なお、固定資産税の課税明細書に家屋番号の記載がないとしても、役所の記載漏れである可能性もあります。そのため、法務局で確認するのが最も確実な方法です。郵送、また、インターネットを介した交付申請も可能です。

相続した未登記建物の解体と手続き

相続した家が未登記であり、はじめに示したAさんのケースのように「家の解体」を選択した場合の手続きを見ていくことにしましょう。

仮に、Aさんに弟Bさんがいるなど他の相続人がいる場合には、まず相続人同士で遺産分割協議を行い、その協議内容に従って事を進めなければなりません。ここではAさん以外に所有権を主張する人がいないとして、解体手続きや解体工事の流れを見ていきます。

1.解体業者の選定

解体業者の選定にあたっては、複数の業者に見積もりを依頼し、数社の見積もりを比較検討したうえで決めましょう。その際、トータルの見積金額も重要ですが、作業項目や施工範囲・数量・単価などがわかりやすく記載されているかどうかが大切なチェックポイントです。

「工事一式 ◯◯◯円」という見積書を出す業者は避けたほうがよいでしょう。また、見積書について、丁寧に、一般にもわかりやすく説明できる業者かどうかも重要なチェックポイントです。

2.解体工事の契約

解体業者と契約を交わします。工事内容、契約金額、工事期間についてしっかりと記載されているか確認をするようにしましょう。

3.各種の届出

家の解体工事については各種の届出が必要です。ほとんどの届出は解体業者が行いますが、契約前にどのような届出が必要になるか、説明を受けておくほうがよいでしょう。主な届出には次のようなものがあります。

・建築基準法(「建築物除却去届」)
建替えを伴わない解体工事で、建築物の床面積の合計が10平方メートルを超える場合、都道府県知事あてに建築物除却届を提出しなければなりません。
解体工事は、そもそも家屋など建物を取り壊して除去する工事ですが、建築基準法第15条第1項ではそれを「除却の工事」としており、その届出も「建築物除却去届」となっています。

・建設リサイクル法(届出書「分別解体等計画等」など)
解体工事では、コンクリートや木材などさまざまな廃棄物が出ます。建設リサイクル法は、こうした廃棄物の中の特定建設資材を資材ごとに分別し、再資源化を目指すための法律です。床面積の合計80㎡以上の建物の解体については、工事に着手する7日前までに都道府県知事あてに届け出る義務があります。

・警察への届出(「道路の使用許可申請」)
家の解体工事を行う際、一般的には重機や資材運搬用の車などを道路に停めておく必要が生じます。こうした場合には道路使用許可を申請しなければなりません。

・所轄労働基準監督所、地方自治体への届出(「アスベスト除去に関わる届出」)
解体する家にアスベストが使用されている場合は、大気汚染防止法に基づき、所轄労働基準監督所へ「工事計画届、建築物解体等作業届」、地方自治体または都道府県知事へ「特定粉じん排出等作業の実施届出書」の提出が義務付けられています。工事開始前14日前、ただし届出日は日数の算定に加えないため、実質15日前までに届け出る必要があります。

・ライフラインの停止
ライフラインとは、例えば、電気、ガス、水道、また、電話、インターネットなどの通信などを停止することです。ライフラインの停止については、解体業者ではなく、解体の発注者が行うことになります。ただ水道は、工事中のホコリを抑えるなど、さまざまな使用が考えられますので、停止させないよう注意しましょう。

また、解体工事に入る前に隣近所へ挨拶しておく必要もあります。家の解体は比較的簡単な木造家屋の解体工事でも3日~1週間、鉄骨造で1週間以上、RC造の場合は2週間以上は見込んでおく必要があります。その間、騒音などで隣近所に迷惑をかけることになります。後々のトラブルを避けるためにも隣近所への挨拶は大切です。

解体業者の担当者が近隣へ挨拶をするケースもありますが、この挨拶についても契約時に確認しておくことをおすすめします。ただ解体業者の担当者が挨拶する場合にも、発注者が同行したほうがよいでしょう。

4.工事開始

家の解体工事は一般的には次のような流れになります。
(1)足場と養生の設置…家の周囲に足場を組み、養生シートで家を覆います。
(2)屋根、内装材の撤去…屋根材、断熱材、ボード類などを撤去します。
(3)家本体の解体…梁、柱、床組など家の主要な構造物を解体、撤去します。
(4)基礎の解体…家の基礎を解体します。また、地中埋設物、ブロック塀、植栽なども撤去します。
(5)整地…すべての解体撤去後に整地作業を行います。

解体後に忘れてはいけない家屋滅失届の提出

さて、家の解体後には、地方公共団体の税務課窓口に「家屋滅失届」を提出することを忘れないようにしましょう。地方公共団体では家屋の状況を把握するよう努めていますが、家の新築、解体等について完全に状況を把握することは難しいからです。

家屋滅失届を提出しないと、解体した家に対して固定資産税が課税されることになってしまいます。家屋滅失届が提出されると、地方公共団体の税務課職員が届出にもとづいて現地確認を行い、翌年度の課税対象から除きます。

なお、家屋滅失届の提出先の名称は地方公共団体によって異なります。要は固定資産税を担当する部署に届け出るということです。届出の用紙は地方公共団体のホームページからダウンロードできるようになっています。

登記されている家(既登記建物)については、解体後、その家の所在地を管轄する法務局に「建物滅失登記」を申請します。建物滅失登記を申請しないと、家はすでにないにも関わらず、登記簿上には家が存在すことになってしまいます。建物滅失登記は、建物の解体後1カ月以内に行わなければなりません不動産登記法第57条)。

法務局に建物滅失登記を申請すると、法務局から地方公共団体の役所に通知されますから、重ねて地方公共団体に家屋滅失届を提出する必要はありません。

未登記建物の解体費用

家を解体する時の費用について見てみましょう。ただ、家の解体費用は、家の構造、家が建っている場所、また、ガレージやカーポートの有無など物件によって大きく違ってきます。そのため実際の費用については、解体業者が現地に訪れ、解体する家と周囲の状況を把握した上でなければ正確なところはわかりません。ここでは、あくまでも「一般的な相場」としてお話しします。

家の解体費用の主な内訳は、建物の解体にかかる費用と解体時に出る廃棄物の処理費用になります。
建物の解体については、家の構造と大きさ(坪数)によって違ってきます。基本的に造りが頑丈な建物ほど坪単価が高くなる傾向があります
。家の構造別に坪単価の相場を示すと、次のようになります。

建物構造別の解体費用相場

・木造…坪単価2万5000円~4万円
・鉄骨造…坪単価3万5000円~6万円
・RC造(鉄筋コンクリート)…坪単価4万5000円~8万円

建物の解体費用は「坪単価×坪数」になります。

例えば、家が木造で坪数が30坪とすれば、坪単価2万5000円~4万円×30坪で、解体費用は75万円~120万円程度ということになります。

鉄骨造であれば、坪単価3万5000円~6万円×30坪として解体費用は105万円~180万円程度。RC造(鉄筋コンクリート)の場合は、坪単価4万5000~8万円×30坪、解体費用は135万円~240万円程度という計算になります。

そして、建物の解体費に廃棄物の処理費用がプラスされることになりますが、この点についても廃棄物の量やその種類によって違ってきます。一般的な相場をあげると次のようになります。

廃棄物の処理費用相場

廃棄物の処理費用…1平方メートルあたりの単価2万~4万円

しかし、この「家の構造」と「坪単価×坪数」による解体費用の計算は、すべての物件にあてはまるものではありませんし、また、廃棄物の処理費用も一律ではありません。

上で解体工事の流れを簡単にご紹介しましたが、例えば「(2)屋根、内装材の撤去」において、屋根材、断熱材、ボード類などを撤去する際は一般的に手作業で行います。そして、「(3)家本体の解体」において梁、柱、床組など家の主要な構造物を撤去するには重機を使います。しかし、家の立地によっては十分に重機を使えないケースもあります。こうした場合、手作業に頼らなければならない範囲が多くなります。そのため日数もかかり、それに伴い人件費も増加するということになります。

ここで家の解体費用の主な項目を確認しておきましょう。家の解体費用の主要項目は次の4つになります。

  • 養生費
  • 解体人件費
  • 重機使用料
  • 廃棄物処分費

見積書に記載される際の項目名は各解体業者によって違いますし、項目ごとに細かな作業がありますが、解体費用を見積書で確認する際、解体費用の計算方法と、この4つの主要項目を頭においておくとよいでしょう。解体業者から見積書の説明を受ける際にも役立ちます。また、費用については、納得がいくまで説明を受けることをおすすめします。

未登記建物の解体に利用できる補助金

家の解体について補助金を利用できることをご存じでしょうか。主に、空き家の解体を対象にしたものですが、全国の地方公共団体で補助金や助成金の制度を設けています。放置された空き家は、老朽化による倒壊、放火による火災、不審者の侵入やゴミの不法投棄、景観の悪化など、地域の生活を脅かす、さまざまな問題の要因となっているからです。

例えば、東京都杉並区では、「老朽危険空家」の除却工事に対して、除却工事費の80%、助成限度額150万円という助成制度があります。

大阪市では「密集住宅市街地整備のための支援制度」があります。例えば古い木造住宅の解体費用について、対策地区の戸建住宅の場合、補助限度額75万円。重点対策地区の場合、補助限度額100万円という補助金制度です。

京都市においても「防災まちづくり推進事業」の一環として「老朽木造建築物除却事業」があり、古くなった木造建築物の除却に要する費用を補助するため、上限60万円(補助率1/2)という制度になっています。

こうした補助金や助成金制度は全国の地方公共団体で設けられています。家の解体を検討している方は、地方公共団体のホームページ等で確認してみるとよいでしょう。ただし、こうした助成金や補助金については、その対象となる「条件」が示されています

東京都杉並区の場合、申請者は個人の所有者であること(法人は不可)、助成金交付申請時に住民税を滞納していないこと、などの条件があります。

大阪市の場合は、「対策地区」で幅員4m未満の道路に面した昭和25年以前に建てられた木造住宅、「重点対策地区」は、幅員6m未満の道路に面した昭和56年5月31日以前に建てられた木造住宅であること等、狭い道路に面した古い木造住宅の解体であることが条件です。

京都市の場合は、原則、京町屋でないこと、昭和56年6月1日に現に存し、又は工事中であった建築物であること、幅員1.8m未満の道にのみ接していることなどの条件があります。

こうした「条件」は、それぞれの地方公共団体で細かく定めていますので、補助金や助成金を申請する際には、まず、条件に合致しているかどうかを確認することが大切です。

また、地方公共団体の補助金や助成金制度は、予算に限りがありますから、予算額に達した時点で申請しても受け付けられないことになります。条件を満たし、また、予算がある場合、申請にもとづいて地方公共団体の職員が現地調査をし、その上で補助金や助成金の交付を判断することになります。

まとめ

未登記の建物を解体する際の流れや、気をつけるべき点についてお話ししてきました。家が未登記かそうではないかは、固定資産税の課税明細書に家屋番号が記載されているかいないかで確認できます。ただ一番確実な方法は、法務局から「全部事項証明書」を取得できるかどうかです。

家が未登記であっても解体することはできます。解体にかかる費用については、一応の目安を知るための金額の算出方法、また、自治体の補助金や助成金についてもご紹介しました。

ただし、ご紹介した解体費用の算出方法は一応の目安を知るためのものですし、補助金や助成金の交付にはさまざまな条件が示されています。

建物は、本来は登記されているべきものです。建物が未登記であることが判明した場合は、なるべく早く登記することがのぞまれます。建物の登記は自分ですることもできます。そのための支援サービスもあります。建物登記支援センターの「住Myの建物登記自己申請」をご利用いただくと、有料ですが専門家に依頼するよりも安価で自分で登記するための支援・アドバイスを受けることができます。

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